交通事故の過失割合に関する基本的な考え方

交通事故の被害者が、加害者側に対して損害賠償を求める際、「過失割合」をどのように設定するかが非常に重要です。
今回は、交通事故の「過失割合」に関する基本的な考え方を解説します。

交通事故の「過失割合」とは?

交通事故の過失割合とは、「当事者の事故に対する責任の割合」を意味します。

交通事故の中には、被害者に全く落ち度がないケースもあります。

(例)
・信号機のある交差点において、どちらか一方の信号無視が原因で発生した、車同士の交通事故
・青信号で横断歩道を横断中の歩行者を、車が撥ねてしまった交通事故

この場合、加害者対被害者の過失割合を「10対0」などと表現します。

過失割合が10対0の交通事故では、加害者が被害者に生じた損害の全額を賠償しなければなりません。

これに対して、交通事故の当事者双方に何らかの過失がある場合には、両方が「被害者でも加害者でもある」と評価できます(本記事では便宜上、過失が軽い側を「被害者」、重い側を「加害者」と表記します)。

(例)
・信号機のない交差点において発生した、車同士の交通事故
・赤信号にもかかわらず横断歩道を横断していた歩行者を、車が撥ねてしまった交通事故

当事者の両方に過失がある場合には、過失の重さに応じて設定された過失割合(「9対1」「8対2」など)に応じて損害総額を分担する(つまり、被害者が受けられる損害賠償額は減る)というのが、過失割合の基本的な考え方です。

チェックポイント

交通事故の損害賠償実務では、事故の類型ごとに過失割合をパターン化した「別冊判例タイムズ38号」が参照されています。

参考:別冊判例タイムズ38号 (民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版)|Amazon

過失割合を決定する際には、「別冊判例タイムズ38号」に基づく過失割合を基準としつつ、交通事故ごとの個別事情を加味して調整を行うのが一般的です。

なお、「別冊判例タイムズ38号」の類型に必ずしも当てはまらない交通事故の場合は、裁判例などを基準に過失割合を見積もることになります。

過失割合は損害賠償額に大きく影響する

過失割合が「10対0」のケースを除き、交通事故の損害賠償額は、過失割合に基づく「過失相殺」(民法722条2項)によって調整されます。

たとえば、被害者のみに1000万円の損害が発生したとしましょう。

このとき、加害者対被害者の過失割合が「9対1」であれば、被害者が受けられる損害賠償額は、損害全体の90%に当たる「900万円」です。

これに対して、仮に過失割合が「8対2」とされてしまった場合、被害者が受けられる損害賠償額は「800万円」に減ってしまいます。
このように、過失割合がどのように設定されるかは、実際の損害賠償額に大きな影響を与えることがわかるでしょう。

チェックポイント

加害者・被害者の双方に損害が発生している場合には、それぞれに発生した損害額を合計したうえで、過失割合に応じて各自損害を負担するという考え方がとられます。

たとえば加害者に100万円、被害者に400万円の損害が発生し、加害者対被害者の過失割合が「8対2」だとします。

加害者は、被害者に対し、320万円(400万円×0.8)の賠償をし、被害者は、加害者に対し20万円(100万円0.2)の賠償をすることになります。

したがって、①上記の差額である「300万円」を加害者から被害者に支払う、または②加害者が被害者に対し「320万円」を賠償し、被害者が加害者に「20万円」を賠償することで精算が完了するのです(双方支払うというのは面倒なので相殺して加害者から被害者に300万円を支払えばよいのではないか、という疑問が生じるかもしれませんが、対物保険や対人保険を使用している場合には自分が支払う分は保険会社が払ってくれるので、そのような場合には相殺せずに双方支払うとした方が得になることがあります。)。

このように、加害者側にも損害が発生しており、かつ被害者にも一定の過失が認められる場合には、被害者が受けられる実質的な損害賠償額はさらに減ってしまう可能性があることに注意しましょう。

交通事故の過失割合を決める手続き

交通事故の過失割合は、まず任意保険会社(加害者側)との示談交渉において話し合われます。

前述の「別冊判例タイムズ38号」の基準を参照しながら、適正と考える過失割合を加害者側・被害者側の双方が提示し、和解の可能性を模索します。

しかし、加害者・被害者間で主張がかけ離れている場合には、示談交渉がまとまりません。
その場合、裁判所に訴訟を提起して過失割合を争うことになります。
過失割合の立証には事故状況に関する証拠が必要なので、弁護士と協力して証拠収集等の準備を進めましょう。

チェックポイント

加害者側の任意保険会社は、できる限り支払う保険金額を抑えるため、裁判例に照らした基準値よりも被害者に不利な過失割合を提示してくる可能性があります。
また、各種損害項目の金額算定にあたっても、裁判例の水準よりも被害者に不利な基準(任意保険基準)を用いるのが一般的です。

被害者が正当な損害賠償を受けるためには、任意保険会社の主張に惑わされず、法的な観点から客観的な損害額を見積もるため、弁護士へのご相談をお勧めいたします。

まとめ

交通事故の過失割合は、損害賠償額に大きな影響を与えます。
そのため被害者としては、事故の状況に応じた正当な過失割合が認定されるように、法的な観点から主張・立証を行うことが大切です。

交通事故の被害に遭い、加害者側への損害賠償請求等をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。