交通事故の賠償金を裁判によって請求する場合、実損害額に「遅延損害金」を上乗せして支払いを受けることができます。
今回は、交通事故時の遅延損害金の計算方法などを解説します。
遅延損害金とは?
一般に「遅延損害金」とは、債務の支払いが遅れたことについて支払われる賠償金を意味します。
たとえばお金を借りた場合、返済期日までに返済をしなければ、遅延損害金を上乗せして支払わなければなりません。
交通事故を理由とする損害賠償の場合も、事故から実際の賠償金の支払いまでにはタイムラグがあります。
このタイムラグを埋め合わせるため、加害者側に遅延損害金の支払い義務が課されるのです。
チェックポイント
交通事故による賠償金支払いが裁判によって命じられる場合、特に当事者間で支払期日を定めたわけではないため、いつから遅延損害金が発生するのかが問題になります。
この点、最高裁昭和37年9月4日判決では、不法行為に基づく損害賠償債務は、催告不要で損害の発生と同時に遅滞に陥ると判示しています。
これを交通事故のケースに当てはめると、「損害の発生=事故発生」の時点で損害賠償債務が遅滞に陥るため、事故発生時から遅延損害金が発生するという解釈・運用がなされています。
遅延損害金の計算には「法定利率」を用いる
遅延損害金は、「金銭の給付を目的とする債務の不履行」に関する損害賠償に当たるため、利率は民法419条1項の規定に従います。
交通事故の賠償金に係る遅延損害金は、結論としては「法定利率」によって計算されます。
民法419条1項では、法定利率を超える約定利率がある場合には約定利率に従うとされていますが、突発的な交通事故の場合には、約定利率は存在しないからです。
法定利率は、現行民法上「年3%」とされています(民法第404条2項)。
ただし、2020年3月31日以前に適用されていた旧民法では「年5%」とされていたため、交通事故の発生時点によって、以下のとおり遅延損害金の利率が変わります。
事故発生日 | 遅延損害金の利率 |
---|---|
2020年3月31日以前 | 年5% |
2020年4月1日以降 | 年3% |
たとえば、2020年5月1日に交通事故が発生し、その後判決によって加害者に賠償金1000万円の支払いが命じられるとします。
この場合、判決主文には「被告は原告に対し、金1000万円および令和2年(2020年)5月1日から支払済みまで年三分(3%)の割合による金員を支払え」と記されます。
仮に加害者が2021年4月30日に賠償金を支払うとすれば、遅延損害金の金額は以下のように計算されます。
遅延損害金 =1000万円×3%÷365日×365日 =30万円
よって、加害者は被害者に対して、計1,030万円を支払わなければなりません。
チェックポイント
法定利率は、社会経済の実情に法律のルールを合わせるため、3年ごとに見直しが行われることになっています(民法404条3項)。
銀行の短期貸付のレートが上下すると、それに伴って法定利率も上がったり下がったりする可能性があります。
示談時には遅延損害金がカットされることが多い
交通事故実務においては、被害者と加害者(任意保険会社)との示談交渉によって示談金(保険金)の支払いを合意する場合、遅延損害金はカットされるのが一般的です。
被害者としても、法的手続きを経ずに示談金を早期に受け取れるメリットがあることから、遅延損害金の部分については妥協するケースが多くなっています。
遅延損害金を妥協しても早期に示談金を受け取るか、判決まで争って遅延損害金をフルに受け取るかは、手続きにかかるコストも踏まえて適切に判断する必要があります。
方針に迷う場合には、弁護士にご相談ください。
まとめ
交通事故の賠償金に係る遅延損害金は、事故発生時から支払い済みまでの期間について、法定利率に基づき計算されます。
全体の賠償額からするとそれほど高額ではないため、示談の場合は妥協することもしばしばです。
遅延損害金の請求を維持するかどうかも含めて、交通事故の示談交渉や裁判手続きには、相手方(加害者・任意保険会社)や裁判所の出方を見ながら臨機応変に対応する必要があります。
弁護士にご相談いただければ、状況に合わせた適切な対応策についてアドバイスができるので、ぜひお早めにご相談ください。