交通事故による休業損害|専業主婦・専業主夫でもOK?

交通事故による休業損害

交通事故の被害に遭った場合、加害者側に対して補償を請求できる損害項目の一つに「休業損害」があります。

休業損害は、被害者がケガの療養のために休業を強いられた場合に、休業期間に失われた収入を意味しますが、収入のない専業主婦・専業主婦の方であっても、休業損害の補償を請求することが可能です。

今回は、専業主婦・専業主夫の方が交通事故に遭った場合に、休業損害の金額をどのように求めるかについて解説します。

休業損害は専業主婦・専業主夫でも補償を受けられる

専業主婦・専業主夫の方は、働いて収入を得ているわけではありませんが、交通事故の実務上、加害者側に対して休業損害を請求できることになっています。

最高裁昭和49年7月19日判決は、専業主婦は、家事労働に従事することで財産上の利益を挙げていると指摘しています。
その理由として同判決は、専業主婦の家事労働の多くが労働社会において金銭的に評価され得るものであり、他人に依頼すれば対価を支払わなければならないことを挙げています。

つまり、家事労働は賃金労働と等価であると考えるのが最高裁判例の立場であり、交通事故における休業損害の実務も、この考え方を踏襲しているのです。

チェックポイント
休業損害を請求するには、「仕事を休んだ」ことを証明する必要があります。

しかし専業主婦・専業主夫の方の場合、会社などに出勤しているわけではないので、「勤務記録」のようなものが存在しません。
そのため、入院期間や通院期間などから、休業日数を推定することになります。

よく用いられる計算方法としては、入院期間はすべて休業日数に算入し、通院期間は通院日と非通院日で分けて割合的に休業日数に算入する方法などがあります。

(例)入院期間:10日
通院期間:30日(うち実際の通院日数は5日)

休業日数への算入割合
・入院期間→100%
・通院期間中の通院日→80%
・通院期間中の非通院日→40%休業日数

=10日×100%+5日×80%+25日×40%
=24日

加害者側に休業損害の支払いを認めさせるには、根拠と説得力のある計算方法を提示することが大切です。

専業主婦・専業主夫の方が受け取れる休業損害額の計算方法

専業主婦・専業主夫の方が受け取ることのできる休業損害額は、休業日数に加えて、算定に用いる基準によっても変わります。

以下では、自賠責保険基準と弁護士基準(裁判所基準)のそれぞれを用いて、専業主婦・専業主夫の方が受け取れる休業損害額を実際に計算してみましょう。

自賠責保険基準の場合|休業1日当たり6,100円

自賠責保険基準は、自動車の運転者に加入が義務付けられている、自賠責保険から支払われる保険金を算定する基準です。
自賠責保険は、被害者に対して最低限の補償を提供することを目的としているため、計算される損害額は比較的低額となります。

自賠責保険基準によれば、休業1日当たりの休業損害額は、原則として6100円です(2020年4月1日~)。

(例)
休業日数が20日の場合

休業損害
=6,100円×20日
=122,000円

弁護士基準(裁判所基準)の場合|賃金センサスを参照して計算する

弁護士基準(裁判所基準)は、裁判例に基づいて被害者の損害額を算定する基準です。
被害者の正当な権利の金額を見積もることのできる基準であり、金額は自賠責保険基準よりも高額になります。

弁護士基準(裁判所基準)では、専業主婦・専業主夫の方の休業損害は、以下の計算式によって計算されます。

休業損害=賃金センサスの女性労働者の全年齢平均給与額÷365日×休業日数

※男性(専業主夫)の場合も、女性労働者の全年齢平均給与額を用います。
※2020年(令和2年)の賃金センサスによると、女性労働者の全年齢平均給与額は381,9200円です。

(例)
休業日数が20日の場合

休業損害
=3,819,200円÷365日×20日
=209,271円

チェックポイント
弁護士基準(裁判所基準)は、休業損害額を算定するための公正な基準です。
しかし示談交渉では、任意保険会社が独自の基準(任意保険基準)に基づき、低額の示談金(保険金)を提示してくるケースがあります。

被害者としては、あくまでも弁護士基準(裁判所基準)に基づく補償を受ける権利があるというスタンスで、交渉に臨むことが大切です。
弁護士にご相談いただければ、弁護士基準(裁判所基準)をベースとした補償を求めて、任意保険会社と交渉することができます。

まとめ

交通事故に遭った場合、専業主婦・専業主夫の方でも、加害者側に休業損害を請求できます。
他の損害項目と併せて、漏れなく正当な補償を請求しましょう。

交通事故の補償請求に関してわからないことがある場合や、きちんと漏れのないように請求を行いたい場合には、一度弁護士までご相談ください。